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大阪高等裁判所 平成9年(ネ)2636号 判決 1999年6月17日

控訴人(被告) 橋本等

<他4名>

右五名訴訟代理人弁護士 南出喜久治

被控訴人(原告) 北村豊藏訴訟承継人 北村廣子

被控訴人(原告) 西村光雄

<他2名>

右四名訴訟代理人弁護士 山下潔

同 浜田次雄

同 松浦正弘

主文

一  本件各控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。

二  被控訴人らの請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一・二審とも被控訴人らの負担とする。

第二事案の概要

(以下において、ゴシック体は当審で付加・訂正した部分であり、その余は原判決を引用した部分である。なお、控訴人を「被告」・被控訴人を「原告」と略称する。)

本件は、訴外明星自動車株式会社(以下、「明星自動車」という。)の株主である原告らにおいて、当時明星自動車の取締役であった被告らに対し、右会社が行なった第三者割当ての方法による新株発行につき、任務懈怠があるとして、商法二六六条ノ三第一項又は民法七〇九条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  前提事実(末尾に証拠の摘示がないものは争いのない事実である。)

1  明星自動車

明星自動車は、一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー事業)及び一般貸切旅客自動車運送事業(貸切バス事業)等を営む会社である。明星自動車は、その定款上、発行する株式の総数は一〇万株、額面株式の一株の金額は五〇〇円とされ、株式の譲渡については取締役会の承認を要するものとされている。

2  当事者

(一) 承継前の原告亡北村豊藏、原告西村光雄、原告辰巳、原告西村善四郎は、昭和六一年八月一六日ないし同月二〇日当時、明星自動車の株主である(《証拠省略》)。

亡北村豊藏は平成九年三月六日死亡し、遺産分割協議の結果、同人が明星自動車の株式について有する権利義務の一切は妻である原告北村廣子が承継した(《証拠省略》)。

(二) 昭和六一年八月一六日ないし同月二〇日当時、被告らは、いずれも明星自動車の株主であり、その取締役である。被告橋本、被告鈴木は、代表取締役であった。

3  原・被告らの持ち株数

(一) 原告らの持ち株数

(1) 北村廣子 九二〇〇株

(2) 西村光雄 一万三〇八二株

(3) 辰巳行正 三二二九株

(4) 西村善四郎 四四三株

(二) 被告らの持ち株数

(1) 橋本等 一万三五二三株

(2) 鈴木勇 一万三五二三株

(3) 中西正勝 三三〇〇株

(4) 澤田留三郎 二四五六株

(5) 大岡馨 八二三株

(三) その他の者の持ち株数

原・被告らの右持ち株を含むその他の者の持ち株数は、別紙株主明細表のとおりである(《証拠省略》)。

4  本件新株発行

(一) 明星自動車は、昭和六一年八月二〇日、以下のとおり、第三者に対する特に有利な発行価額で新株を発行した。

(1) 新株式発行数 記名式普通額面株式二万株

(2) 最低発行価額 一株につき一〇〇〇円

(3) 払込期日 同月一九日

(4) 割当方法 訴外株式会社ジャルファイナンス(以下「ジャルファイナンス」という。)に対する第三者割当

(二) 右新株発行は、同月一六日開催の株主総会において、賛成四万五六三二株、反対二万〇五七一株で可決された。しかし、原告西村光雄に対しては、右株主総会招集通知がなされておらず、同人は右総会に出席しなかった。

5  本件新株発行前後の各種訴訟の経緯

(一) 原告西村光雄の株主の地位

(1) 原告西村光雄は、昭和六〇年に、明星自動車を被告として株主の地位確認請求訴訟を提起し、昭和六一年一月三一日、請求棄却の判決があり、同年五月三〇日、控訴棄却の判決があった。

(2) しかし、昭和六三年三月一五日、上告審において、原判決を破棄し一審判決を取消す、原告西村光雄が明星自動車の株式一万三〇八二株を有する株主であることを確認する旨の判決があった。

(二) 本件新株発行無効の訴え

原告北村は、本件新株発行について、新株発行無効の訴えを提起したが、昭和六二年一二月一七日、請求棄却の判決があり、その後、控訴棄却、上告棄却の判決があった。

二  争点及び当事者の主張

1  争点

(一) 任務懈怠ないし違法行為

本件新株発行につき、取締役である被告らに任務懈怠ないし違法行為があるか。

(1) 発行手続上の任務懈怠ないし違法行為

(2) 本件新株発行目的の違法性

(二) 新株発行の効力と取締役の賠償責任

新株発行無効の請求を棄却する確定判決と、取締役の責任との関係

(三) 悪意又は重過失の存否

(四) 損害

2  原告らの主張

(一) 任務懈怠ないし違法行為

(1) 本件新株発行は、特に有利な価額の一株一〇〇〇円で、第三者(ジャルファイナンス)に引受けさせたものである。形式的には株主総会の特別決議があるが、これは、原告西村光雄(当時の持ち株数一万三八〇二株)に対する招集通知をしないまま決議したもので、取締役たる被告らに任務懈怠ないし違法行為がある。

(原告らは、当審において右主張を主位的主張に改めた。)。

(2) 授権資本制度の下においては、新株の発行は自由になし得るものではなく、専らあるいは主として株式会社における自己の支配権の確立を目的として新株を発行することは許されず、かかる目的で新株を発行することは取締役としての任務違反になる。

被告らは、新株を発行してこれを自己と意を通じた第三者に割り当てることにより自派に同調する株主数を増加させ、会社に対する支配権を確立しようと計画したものである。明星自動車においては、本件紛争までは全て株主に割り当てられており、第三者に新株を発行することはなかった。本件新株発行では、明星自動車の授権資本の残りの二万株全部をジャルファイナンスに割り当てたが、本件新株発行に当たって、新株発行による総金額を幾らにするかよりは、できるだけ多く同社に引き受けて貰うという考え方が優先されたのである。

本件新株発行の引受価額は一株一〇〇〇円であったが、ジャルファイナンスに二万株全部を引き受けて貰いやすい価額ということで同金額とされたものであり、明星自動車が依頼した浜松明公認会計士による一株三九〇七円という鑑定価額があったにもかかわらず、あえて右目的から右価額とされた。

被告らがなした支配目的の新株発行は、著しく不公正な方法によるもので、取締役としての任務懈怠ないし違法行為に当る。

(原告らは、当審において右主張を予備的主張に改めた。)。

(二) 新株発行の効力と取締役の賠償責任

本件新株発行の無効確認請求棄却の確定判決は、新株発行の後は、著しく不公正な方法による新株の発行が新株発行の無効原因に該当しない、あるいは、特段の事情のない限り新株発行無効の訴えの事由たりえない、というにすぎない。本件新株発行が著しく不公正な方法でないことを確定したものではない。したがって、新株発行の効力が無効でないとしても、被告らの任務懈怠ないし違法行為を否定するものではない。

(三) 悪意又は重過失の存否

被告らは、本件新株発行により、原告ら株主に損害を与えることを知り、また、容易に知り得たのであるから、前示任務懈怠につき悪意、重過失がある。

(四) 損害

(1) 本件新株発行による原告らの損害は、新株発行による保有株式の価額の下落、すなわち、本件新株発行直前と直後の保有株式の価額の差額により算定すべきである。

① 本件新株発行は、被告らの会社支配権確立を目的としたものであるところ、少数の株主しかいない閉鎖会社において会社の支配権にかかわる性格を有する新株の第三者発行の場合には、その発行価格は、旧株式のもつ純資産価値を基本として評価すべきである。

本件新株発行前の明星自動車の株価(発行済株式総数八万株)につき、純資産価額方式と類似業種比準方式を併用した藤野次雄公認会計士の鑑定書に準拠し時点修正を行うと、昭和六一年三月三一日現在の右株価は一株一万五四二九円となり、また、浜松明公認会計士の鑑定書に準拠し類似業種比準方式による同時期の右株価を一株二六一七円として、右各価額の平均値をとると、本件新株発行直前の明星自動車の株式価額は一株九〇二三円となって、一株当たり三九〇七円を下らなかったことが明らかである。

ところが、本件新株発行によって明星自動車の二万株につき一株当たり一〇〇〇円が払い込まれたにすぎないから、本件新株発行直後の株価は、次のとおり、一株三三二五円に低下した。

(3907円×8万株+1000円×2万株)÷10万株=3325円

したがって、原告らは、少なくとも一株当り五八二円の損害を被った。

3907円-3325円=582円

よって、原告らの損害額は、原判決の認容額を下ることはない。

② 仮に、本件新株発行直近決算期当時(昭和六一年三月三一日)の明星自動車の価額が前記の二六一七円であるとしても、なお原告らには一株当たり三二四円の損害がある。

(2617円×8万株+1000円×2万株)÷10万株=2293円

2617円-2293円=324円

(原告らは、当審において、右主張(1)を主位的主張に改めた。)

(2) 本件新株発行により、原告らの株式比率(持ち株の議決権割合)は、発行前は三二・四四%であったものが、発行後は二五・九五%と大幅に低下し、原告らは精神的苦痛を被った。

発行前(9200株+13082株+3229株+443株)÷8万株=32.44%

発行後(9200株+13082株+3229株+443株)÷10万株=25.95%

これによる原告らの損害額は、前記(1)①と同額を下らない。

(原告らは、当審において、右主張(2)を予備的主張に改めた。)

3  被告らの主張

(一) 本件新株発行の目的

本件新株発行は、次のとおり、明星自動車とジャルファイナンスとの業務提携による財政体質改善及び今後の業績安定・株主の安定とを目的としたものである。

(1) タクシー業界の規制緩和による今後の競争激化に備えた、明星自動車の自己資本の拡充、財務体質の改善

(2) ジャルファイナンスが営む自動車リース業につき、リース車両の整備を明星自動車が請負う等の業務提携

(二) 任務懈怠ないし違法行為

(1) 取締役会は、資金調達を目的とする限り、新株発行に関し、自由な裁量権限を行使することができる。したがって、会社に具体的な資金需要があり、専らこれを賄うために資金を調達する方法として新株を発行することは、正当な目的であるし、取締役による新株発行権限の適正な行使である。被告らは右目的のために取締役会で本件新株発行をなすことを決議して、これを実行したものであるところ、本件新株発行は、株主総会の特別決議を経ている。また、当時、原告北村申請の本件新株発行差止の仮処分申請が却下された。だから、取締役の会社に対する任務の懈怠はない。また、これは、取締役の正当な職務行為であって、これに違法はない。

(2) なお、本件株主総会招集通知当時、原告西村光雄提起の株主の地位確認請求訴訟につき、請求棄却の一審、一審判決を認容する控訴審の各判決がなされていた。これを覆す上告審判決は未だ出されていなかった。そこで、本件新株発行は、先行する右二判決の司法判断に準拠しなされたが、取締役が業務を執行する場合に、これらの確定判決を待っていては業務の迅速性・機動性が妨げられ、結局は会社に不測の損害を生じさせる結果となるため、当該事項に関する裁判所の一応の終局的判断がなされれば、これが確定する以前であっても、これに準拠して業務を執行することは、取締役の正当な業務行為の範囲である。

それ故、被告らは、右一審及び控訴審判決にしたがって、原告西村光雄を株主ではないものと扱い、株主総会の招集通知をしなかったのであり、また、本件新株発行は、訴外エムケイ株式会社(以下「エムケイ」という。)の違法目的不達成が確定した後になされているので、同社の明星自動車乗っ取りへの対抗や支配権紛争への介入のためになされたものではなく、現実に資金需要があり、純粋に資金調達目的のためになされたものである。会社に資金調達の必要がある以上、資金調達の方法の選択は、取締役に任されているのであるから、これに任務懈怠はない。

(三) 新株発行の効力と取締役の賠償責任

本件新株発行には、その無効確認請求を棄却した確定判決がある。これによって、本件新株発行は確定的に有効となり、これが被告らの正当な職務行為であることが確定した。したがって、本件新株発行につき、被告らの賠償責任を認める余地がない。

(四) 悪意又は重過失の存否

本件新株発行は、前示株主総会の特別決議と、前示原告西村光雄提起訴訟の請求棄却の二判決及び前示仮処分却下決定という、公的判断にしたがって行なったもので、被告らに悪意、重過失はない。

(五) 損害

株価の下落は、正当な本件新株発行の反射的効果であって、損害とはいえない。

また、本件新株発行により、株主の持ち株に実質的な減少はなく、損害は全く認められない。すなわち、本件新株発行直前である昭和六一年三月三一日現在(発行済株式総数八万株)の一株の評価額は、当時の純資産一億四四七六万二七八九円(簿価)を八万株で除した一八〇九円となるのに対し、本件新株発行直後の株価は、一株一〇〇〇円で二万株払い込まれたので一株当たり一六四七円となる(《証拠省略》)。

(1億4476万2789円+1000円×2万株)÷10万株=1647円

したがって、その差額は一六二円でしかない。

そして、本件新株発行直後(昭和六二年三月三一日決算期)の決算報告書によれば、当時の純資産は二億一〇九九万一四三五円(簿価)で一株の評価額は二一〇九円でむしろ発行前より増加しているから、本件新株発行による株式価格の減少はない。

仮に損害があったとしても、右程度の下落であれば、著しく不公正な価格で新株発行がなされたものでないことは明らかである。

また、株式比率の低下は単に新株発行の反射的効果であって、それによる慰籍料もあり得ない。

第三当裁判所の判断

一  事実経過

《証拠省略》によれば、以下の各事実が認められる。

1  昭和三三年一二月、京都、滋賀の旧進駐軍の離職者によって、その自立更生を目的として、タクシー会社である明星自動車を設立した。

2  この設立は、亡北村豊藏(関西駐留軍労働組合副委員長)、原告西村光雄(同会計監査)が中心となって行なったものである。

3  昭和四三年五月、亡北村豊藏が代表取締役を解任され、原告西村光雄が代表取締役に就任した。

4  昭和五〇年一二月、原告西村光雄が解任され、被告橋本が代表取締役に就任した。

5  被告橋本、被告鈴木は、右のとおり、創業の功労者である亡北村豊藏、原告西村光雄を解任し、明星自動車の代表取締役になった。こうして、被告派株主と、原告派株主の対立、抗争が始まった。

6  昭和五六年ころ、明星自動車の株主の親睦団体である星友会のメンバーの間で、エムケイが明星自動車の株式を取得している、との噂がたった。そこで、エムケイによる会社支配を恐れた右星友会のメンバーは、会社への事前通知なしに保有株式を他に譲渡した場合には、一定額の違約金を支払う旨の誓約書を取り交わした。

7  本件新株発行当時、原告西村光雄はエムケイに勤務しており、その保有する明星自動車の株式はエムケイが競落していた。また、原告西村善四郎は、原告西村光雄の弟である。原告辰巳行正も、当時、エムケイに勤務していた。

8  本件新株発行当時、原告らと被告らとの間に、明星自動車の支配権をめぐる争いがあった。原告らの背後には、貸切バス事業への進出を企図するエムケイが存在する。

9  本件新株発行当時、明星自動車は借入金に頼る割合が極めて大きかった。

10  明星自動車の本件新株発行の発行価額一〇〇〇円は、昭和五九年九月に同会社が明星観光に対して新株を発行した際の発行価額三九〇七円と比較して著しく低額であった。

11  本件新株発行後、ジャルファイナンスとの業務提携は全く具体化せず、進展していない。

二  任務懈怠ないし違法行為

1  株主総会招集通知の欠如

会社が株主以外の者に対し特に有利な発行価額をもって新株を発行するには、これに関する株主総会の特別決議が必要である(商法二八〇条ノ二第二項)。

取締役はこの適法な総会の特別決議を経るべき任務があり、これを経ないで新株の有利な価額による発行をした場合には、これが任務懈怠に当ることはいうまでもない。

本件新株発行は、前認定のとおり有利な価額による発行に当るが、形式上、株主総会の特別決議を経ている。しかし、被告らは、本件新株発行当時一万三〇八二株の株主であった原告西村光雄に右株主総会の招集通知を殊更にしなかった。

原告西村光雄が前訴の口頭弁論の終結時である本件株主総会開催の直前ころに明星自動車に対する関係で株主としての地位を有していたことは、前訴の判決によって確定しており、本件においてはその後本件株主総会が開催されたころまでに同原告の右地位に変更が生じたことはうかがわれないところ、定款上株式の譲渡については取締役会の承認を要する旨の制限の付されている会社において株式の譲渡等がされた場合には、会社に対する関係でその効力の生じない限り、従前の株主が会社に対する関係ではなお株主としての地位を有し、会社はこの者を株主として取り扱う義務を負うのであるから、明星自動車の取締役である被告らは、原告西村光雄を株主として取り扱い、本件株主総会の招集の通知を行う職務上の義務を負っていたものというべきである(株式の移転は取得者の氏名及び住所を株主名簿に記載しなければ株式取得者は会社に対抗することはできず[商法二〇六条一項]、会社は株主名簿に記載されている全株主に株主総会の招集通知義務がある)。そして、株主総会開催に当たり株主に招集の通知を行うことが必要とされるのは、会社の最高の意思決定機関である株主総会における公正な意思形成を保障するとの目的に出るものであるから、同原告に対する右通知の欠如は、すべての株主に対する関係において取締役である被告らの職務上の義務違反を構成するものというべきである(最高裁昭和四二年九月二八日第一小法廷判決・民集二一巻七号一九七〇頁参照)。

本件株主総会の招集に先立って、前訴において原告西村光雄の株主としての地位の確認請求を棄却すべきものとする控訴審判決が言い渡されていたが、右判決は、その確定を待って、初めて実体法上の権利義務関係についての効力を生ずるのであって、確定に至るまでは、会社の負う前記義務に消長を来すことはない。また、仮に当時本件新株発行を早期に行う必要性が存在したとしても、株主に対する株主総会の招集の通知が会社の意思決定に関して有する意義が前記のとおりであることに照らし、取締役における事務処理上の便宜のいかんによって、右通知を行う義務が免除されることはあり得ない。してみると、これらの事情は、被告らに職務上の義務違反がありこれにつき悪意又は重大な過失もあったとすることを妨げるものではないというべきである。なお、原告北村が申し立てた本件新株発行差止めの仮処分事件の帰すうが、右判断を左右するものでないことは、いうまでもない。また、本件においては、本件株主総会における決議の取消しの訴えは提起されておらず、原告北村が提起した本件新株発行の無効の訴えについては請求を棄却する判決が確定しているが、これらの事情によって、被告らの前記義務違反の違法性ないし責任の存在が否定されるものでもない(最高裁昭和三七年一月一九日第二小法廷判決・民集一六巻一号七六頁、最高裁昭和四〇年一〇月八日第二小法廷判決・民集一九巻七号一七四五頁参照)。

なお、本件において、仮に原告西村光雄に対して本件株主総会の招集の通知が行われ、同原告がその議決権を行使していたならば、前記一に認定の事実に徴し原告らが反対の立場に立ったことが容易に窺うことができ、本件新株発行に賛成する株主の議決権数は、商法二八〇条ノ二第二項、三四三条所定の多数に及ばなかったことが予想されるから、決議が得難かったものというべきである。

2  悪意又は重過失

前示認定判断のとおり、被告らは、取締役として会社に対する前示任務懈怠につき、反対派の原告西村光雄に敢えて特別決議のための株主総会招集通知をせず、適法な特別決議をしないまま特に有利な価額で本件新株の発行をしたものであるから、この任務懈怠に悪意又は重過失があることは明らかである。

三  原告らの損害

1  特に有利な発行価額による新株発行が違法になされた場合に既存株主に生じる損害は、その発行価額と本来会社に払い込まれるべき適正な発行価額との差額(すなわち、本来増加すべき会社資産)が増加しないことにより、既存株式の客観的価値が低下することである。

そして、右株式の客観的価値の低下は、違法な新株発行直前の株式価額と有利な発行価額による株式価額の低下との差額として算定するのが相当である(株式上場企業のように新株発行に伴う市場株価の下落が見られるときは、その下落額を損害とすることもできるが、本件のような閉鎖的な非上場企業においては、市場株価の下落を算定することはできない。)。

2  被告らは、本件新株発行は正当な目的によるものであるから、それにより株価の下落があっても損害とはいえない等として、原告らに損害が発生したことを否認する。

(一) 前記前提事実に前記一(事実経過)で認定した事実、《証拠省略》を総合すれば、次のように認められる。

本件新株発行当時、明星自動車の株主の内部では、旧経営陣であった亡北村豊藏・原告西村光雄ら(少数派株主)と現経営陣である被告ら(多数派株主)の二派が対立していたところ、原告西村光雄らはエムケイと意を通じて明星自動車の支配権獲得を図ろうとしていたことが窺われたこと、そこで、明星自動車の多数派株主である被告らは、これを嫌って、その対抗措置として特に有利な価額での本件新株発行をなしたものであって、当時、ジャルファイナンスとの業務提携を実現させることを企図して、右発行をなしたものではない。

(二) この点につき、《証拠省略》によれば、ジャルファイナンスの取締役である湊和一が、別件訴訟において、明星自動車との業務提携が具体化せず、進展しなかった理由として、ジャルファイナンスの方で業務提携を現実化するに足るだけの人員が不足している旨を証言している。これによっても、真実に業務提携の目的があったことが推認できないのみならず、却って、ジャルファイナンスにおいて、業務提携の現実性につき事前にほとんど検討していなかったことが窺われる。また、本訴では、これと異なり、被告らは、本件新株発行をめぐる訴訟があるので、業務提携の推進を避けた、と供述したりもするが、にわかに措信できない。したがって、これらの証言、供述をもって、業務提携の目的で本件新株発行が行なわれたものと認めることはできない。

(三) 被告橋本、被告中西は、原審における本人尋問において、本件新株発行の目的は、資金調達、自己資本拡充にある旨陳述する。なるほど、前示一(事実経過)の冒頭掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、タクシー業界の規制緩和による競争激化に備え自己資本拡充の必要性はこれを認められないこともない。しかし、前認定一10のとおり、本件新株発行の割当価額は相当低額である。また、《証拠省略》によれば、一株あたり一〇〇〇円という本件新株発行の割当価額決定につき、明星自動車とジャルファイナンスとの間で格別の交渉もなく、明星自動車の側から右価額での割当を申し入れていたと認められる。

これらの事実を考え併せると、本件新株の発行は、原告らの前記会社支配権獲得企図に対する対抗措置の一環としてなされたものであることが推認できる。これに反する前記橋本、中西の陳述は、曖昧であり、にわかに措信できない。他に、右認定を覆すに足る的確な証拠がない。

(四) 右各事情からすると、本件新株発行が正当な目的でなされたものとはいえないのみならず、仮に発行目的に違法性が認められないとしても、その発行手続に違法があり、それによる株価の下落が生じた以上、それが原告らの損害でないということはできない。

3  損害額の算定

(一) 株式の適正価格を算定するに当たっては、通常、配当還元方式・収益還元方式・純資産価額方式・類似業種比準方式が適宜採用されている。

(1) 配当還元方式は、会社支配の目的を有しない少数一般株主には適合するが、特定の第三者割当を予定する場合や、本件の明星自動車のように配当が経営者の意思によって左右される会社には適合しない。

(2) 収益還元方式は、将来各期に期待される利益を一定の利回りで還元計算するものであるが、会社の利益の多くは内部留保されることが多く、利益の増加が直ちに株主の収益の増加に結び付くものではない点で、会社の利益のみを基準とする方式は妥当とはいえない。

(3) 純資産価額方式には、帳簿価額による方法と時価による方法とがあり、時価にも会社解散を前提とした処分価額と企業継続を前提とする価額とがあるが、新株発行時の適正価額を算出するには、企業継続を前提とした時価を基準として算定するのが相当である。

(4) 類似業種比準方式は、非上場株式の評価方法として広く利用されているが、各業種・規模・利益・配当額等につき標本となるべき企業の選定に困難が伴う。

従って、本件においては、純資産価額方式と類似業種比準方式の双方を用い、両方式を一定の比率で按分して株価を算定するのが相当と考える。

(二) 《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

(1) 昭和五九年九月、明星自動車が明星観光に対し新株を割り当てた際、同年三月期(第二六期)の決算に基づき類似業種比準方式に従って算定した株価は一株当たり三九〇七円であった。

(2) 明星自動車の昭和六一年三月期(第二八期)の決算に基づき類似業種比準方式に従って算定した株価は一株当たり二六一七円であった。

(3) 右昭和五九年三月期の決算に基づき、公認会計士藤野次雄作成の鑑定評価書を基礎に時点修正等を行った後の明星自動車の評価後純資産は、次のとおり一株当たり九〇二三円となる。

(ア) 明星自動車所有の土地のうち城陽市所在の土地以外の土地については、昭和五九年三月当時の時価(一二億九〇九三万三〇〇〇円)を基礎に六大都市市街地価格指数(住宅地)による昭和五九年三月と昭和六一年三月の価格上昇割合(八五七一/七四一二)を乗じた額(一四億九二七九万三六七七円)を時価とし、城陽市所在の土地については昭和五九年三月当時の時価(二億三六九六万五〇〇〇円)のままとして合算する(計一七億二九七五万八六七七円)。

(イ) 営業権の評価はしない。

原告らは、タクシー一台につき三〇〇万円、バス一台につき一〇〇〇万円の営業権があると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(ウ) (a) 簿価純資産評価額 一億四四七六万二七八九円

(b) 土地の時価上昇額 一三億一一六五万八三一〇円

(c) 税効果 △七億三四五二万八六五三円(一円未満切り捨て、以下同じ)

((b)×〇・五六)

(d) 評価後純資産 七億二一八九万二四四六円

((a)+(b)-(c))

(e) 株価(一株当たり) 九〇二三円

((d)÷八万株)

(4) 被告らは、純資産価額方式によるときは帳簿価格によるべきで時価に修正評価すべきでないと主張するが、同方式は会社の実質的価値を評価して株価を算定するものであるから、時価評価が可能な場合にはそれによるのが相当である。右主張は採用できない。

(三) 以上のように、明星自動車の昭和六一年三月期の決算を基礎に株価を算定すると、類似業種比準方式では一株当たり二六一七円であり、純資産価額方式では一株当たり九〇二三円となるので、前者を二・後者を一の割合で按分するのが相当と認められ、そうすると、一株当たりの株価は四七五二円となる。

右価額をもって本件新株発行直前の株価と認めるのが相当である。

(四) 本件新株発行直前の一株当りの価値が四七五二円であったとして、従前の発行済株式が八万株、本件新株発行により一株当り一〇〇〇円の二万株分の払込みがあったことにより、新株発行後の一株当りの価値は四〇〇一円に相当すると推認される。

(4752円×8万株+1000円×2万株)÷10万株=4001円

従って、本件新株発行により、原告らは、その保有株式一株当り七五一円の損害を被ったものと認めるのが相当である。

よって、原告らの損害額は、この一株七五一円の損害に前示持ち株数を乗じた額となる。即ち、原告北村が六九〇万九二〇〇円、原告西村光雄が九八二万四五八二円、原告辰巳が二四二万四九七九円、原告西村善四郎が三三万二六九三円となる。なお、本件債務は履行の請求を受けた時に遅滞に陥る。

第四結論

以上の次第で、控訴人らは、被控訴人らに対し、商法二六六条ノ三第一項に基づく損害賠償として、右各金額及びこれらに対する平成元年八月二〇日(訴状送達の日の翌日)から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

右損害額は原判決認容額を上回るから、本件各控訴は理由がなく棄却すべきである(なお、本件については控訴人らからのみ控訴がなされているので、不利益変更の原則に従い、原判決を変更することはしない。)。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林茂雄 裁判官 小原卓雄 山田陽三)

<以下省略>

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